バイオレット花

酪酸はなぜ長寿をもたらすのでしょうか?

それは大腸内で酪酸の濃度が高まると、哺乳類の免疫系の全体を変えてしまうためです。すなわち酪酸優位な腸内環境は体全体に大きな好ましい効果をもたらします。大腸内の酪酸濃度の増加が哺乳類の免疫系に影響を与える「場」が必要ですが、これこそが大腸上皮の直下にあるパイエル板という構造です。このパイエル板は他の大腸上皮とは大きく構造と機能が異なります。
1) 大腸中の酪酸が通過できる。
2) 抗原提示細胞(マクロファージ)と免疫担当細胞(T細胞)が密集している
この2点です。このことで大腸の酪酸は直接マクロファージとT細胞の機能に強い影響を与えることになります。
それではどのような影響なのでしょうか?

これこそが調節性T細胞の分化を促進する、ということです。
 

パイエル板があるために、酪酸濃度の増加は調節性T細胞の増加を促進するという結果をもたらします。この調節性T細胞は哺乳類の行き過ぎた免疫反応を抑制し、正常な状態に戻す作用があります。例えば、Philippe Langella氏のグループはFaecalibacterium prausnitziiを培養して、潰瘍性大腸炎やクローン病のマウスの腸内にもどしてやるとこれらの病態が改善されることを 発見しています。この作用は調節性T細胞の増加を介していることがわかっています。免疫疾患の多くで、ヘルパーT細胞の過剰な活性化が起こっています。この異常な活性化を抑制するのが調節性T細胞です。これにより行き過ぎた免疫を抑制し病態を改善するとされています。

Cute chihuahua puppy sleeping with teddy
黄色と紫色の花

メチニコフ氏が長寿村を研究して、その共通の食習慣を抽出して、彼らが毎日のようにヨーグルトを食べていることを見つけだし、この中に含まれる乳酸菌が長寿の原因ではないかと考えたのは100年以上前です。それ以来多くの学者が、腸内細菌が健康長寿のキーとなるかもしれないと考えました。

そしてマイクロバイオームなどの最新技術による解析により、酪酸菌も腸内環境を健康に保つために大変重要であることがわかってきました。酪酸菌の1種である Faecalibacterium prausnitzii がクローン病の患者で大きく減少していることが、マイクロバイオームで明らかになったからです。

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Little girl with a Golden retriever pupp

​酪酸菌とTreg細胞

サンゴの花

腸内の理想的な環境は弱酸性です。弱酸性に保つためには、腸内細菌から酸性物質(低級脂肪酸)を産生させる必要があり、これには主に4種類の低級脂肪酸があります。すなわち酢酸(炭素数C=2)、乳酸(C=3)、プロピオン酸(C=3)、酪酸(C=4)です。

ちなみに、ケトン体は酪酸の3位の炭素が水酸化されたものです。

多くの腸内細菌はこれらの低級脂肪酸を産生する能力を持ちますが、どの低級脂肪酸を優位に生産して、菌体外に放出するかについては、腸内細菌の種類によって決まっています。酢酸、乳酸、プロピオン酸そして酪酸を優位に生産する腸内細菌をそれぞれ、酢酸菌、乳酸菌、プロピオン酸菌そして酪酸菌と呼んでいます。

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黄色とピンクの花

この先駆的な仕事に続いて、酪酸菌の健康効果に関する報告が相次ぎました。2018年の「第22回腸内細菌学会」の中では「長寿者が多い地域に住む高齢者の腸内細菌を解析したところ、酪酸菌が多く検出される」ことが報告されました。
京都市内(コントロール)の住民と京丹後市の住民(有意に長寿者が多い)の腸内細菌叢を比較したところ差異があることについての報告でした。(京都府立医科大学 内藤裕二先生によるご研究より)
すなわち京丹後市の住民では、ロゼブリアやラクノコッカスなどの酪酸菌が有意に多いのです。

この報告などを基本として、酪酸菌を「長寿菌」と呼ぶことが提唱されました。すなわち、酪酸優位な腸内環境を作ることがアンチエイジングの基本の一つになる可能性がある、ということです。

Cute dog sit in the car on the front sea

Naito Y, Takagi T, Inoue R, Kashiwagi S, Mizushima K, Tsuchiya S, Itoh Y, Okuda K, Tsujimoto Y, Adachi A, Maruyama N, Oda Y, Matoba S. Gut microbiota differences in elderly subjects between rural city Kyotango and urban city Kyoto: an age-gender-matched study. J Clin Biochem Nutr. 2019 Sep;65(2):125-131.

【参考論文】